感情屋さん

ご自由にお持ちください

停滞

 きのうの昼間はおおむね雨と風だったが、飲み物の在庫を切らしたので自販機に買いに行こうと外に出たら秒速400メートルはあるんではないかというほどの風が吹いていた。しかしコートをはためかせる風は暖かかったので、やはりこの街にも春が近づいているんだと思う。きっと大きい低気圧と大きい高気圧が張り合ったりしているのだろう。
 一方の我が暮らしはと言えば、移ろいゆく季節とは対照に様々なものが停滞していた。机には空き缶や空きペットボトルが都会のビル群がごとく乱立し、あげく床をも埋め尽くさんとしている。わずか四畳半のこの洞穴の唯一の癒しであるところの観葉植物は土まで乾ききっていた。シェフレラという手入れの必要の少ない種らしいが、この体たらくの部屋でよくかくもたくましく生きているものだと感心する。最後に水をやったのはいつだったか。もう今日が何曜日なのか分からなくなってしまった。それでも時速10万キロメートルで回転するこの湿った岩の塊は残酷なもので、毎日決まった時間に日が昇り、日が沈み、また日が昇る。3月に入ってからはそんなに時間は経っていないはずだと思っていたが、気づけばもう4月になるらしい。仕事はやりかけで放置されているし、進学先の課題は手つかずのままだ。とうとうSSDが擦り切れてしまったパソコンはとりあえずラップトップが代打で入っているものの、特に修理の目途は立っていない。
 ここ二週間くらいはもっぱら「何もしない」をしている(ゼロを定義してくれた大昔の数学者に感謝)。あるいは時々布団からモソモソと出てきてコンピューターでゲームをして日中を過ごし、夜は珍妙な機械を被ってVRChatを起動し、美少女になるなどしている。まるでカスのヴァルハラだ。一日だけ頑張って仕事を進めたものの、翌日にはすっかり布団から出られない駄人間に戻ってしまった。去年の自分はどうやって意味のある価値を出力していたのだろうかと不思議に思う。
 ツイートを見返すに、何本かゲームを買って遊んでいたのはだいたい一週間ほど前の出来事らしい。中でも"Metro Exodus"と"Detroit: Become Human"は良かった。どちらも細部まで作りこまれたマップと世界観に準拠したUIが特徴の作品で、ストーリーもよく練られている。おすすめです。特に"Detroit"はストーリーの分岐が大量にあるらしく、やりこみの余地が大いにあるようなので、元気になったらぜひともそれらの分岐イベントを見たいなと思う。元気になれるのかはさておき……
 かかりつけの先生いわく「気分の高まりを落ち着かせる薬ではなく、気分の落ち込みを抑える薬のほうがいいかもしれない」とかで、薬がまた変わった。今度は夕食後の一回のみ服用すればいいようなので助かった。というのも、13時起床が基本になってしまったわたしには朝食後に薬を飲むなどというのは困難を極めるからだ。
 自分の心理状態といえば、最近気づいたことがある。家族と話すときは流暢に話すことができるのだが、インターネットのオタクと会話するときは一見正常に会話ができているようでも、実は語尾がワンパターンになりがちだったり、話していてだんだんしどろもどろになったりするのだ。もしかしたら気持ちの部分では「気負わず話せる関係」と信じていた相手でも、脳は「他人」というラベルを貼って失言で信頼を失うことを恐れていて、それが発話する文章を考えるうえで影響しているのかもしれない。わたしは医者ではないので分からないが。
 そういえば、さっき「最近はもっぱら寝て過ごしている」と書いたが実はこれは半分嘘で、数日に一回のペースで歯医者(わたしは「金払って歯削られる施設」と呼んでいる)に通っている。精神が終わってしまった影響で、深夜まで何かをしてそのまま歯も磨かず眠るような日々が一年ほど続いた結果、かなりの歯をやってしまったのだ。この「数日に一回出かけなければならない」というシチュエーションがなかなか厄介で、自分でコントロールできない予定がポンポン生えてくるのがまあまあ今の精神状態には重いのだ。ついでに午後3時くらいに予約が入りがちなのもたちが悪く、どうにか午後を使って仕事をしようとしても途中で中断せざるを得ず、一度作業を始めたら数時間ぶっ続けでやりたい派のわたしにとってはまあ最悪なのである。
 とりあえず近況としては「進んでいるのは歯の治療くらいで、あとは全部止まっている」という感じ。こんなんで来る4月から学生として社会生活をやれるのだろうか、いや、無理だろ。とりあえずも差し当たってもないが、ひとまずは社会生活よりもうちょっと下のレイヤーにある「生存」を頑張ろうと思う。頑張ります。